最近はずっと尾崎一雄の『あの日この日』を読んでいる。
とても面白くて気がつけばもう最終巻の第四巻。読み始めるまでは、途中で飽きてやめてしまうかもしれないと思っていたが、どうやら読了できそうである。
これまでで印象に残っているのは、尾崎一雄が奈良へ移り住むところ。
移り住むというより、私生活の問題でどうにもならなくなってしまい、ほとんど逃げるように奈良へやってくる。
あてもなく乗った汽車のなかで、尾崎一雄は突然奈良行きを決意します。
《どこへ行く。全くあては無かつた。各駅停車の名古屋行だつたか京都行だつたか。箱根から西は晴れてゐて、夕あかりの北の空に富士山が見えた。
不意に、奈良へ行かう、といふ思ひがひらめいた。さうだ奈良!
来かかつた車掌をつかまへ、奈良まで乗越しの手続をとると、私は一段落着いたと感じると共に、ひどく疲れを覚えて、やがて眠つてしまつた。
奈良市上高畑の志賀直哉邸へ辿り着いたのは翌日の何時頃か。四年九月初旬の、まだ暑い、晴れた日だつた。》
当時奈良の高畑には志賀直哉が住んでいて、多くの文人や画家が移り住んだり集まってきたりしました。
尾崎一雄もそのひとり。一年ほどそこに住んだそうです。
先週、私も不意に思ったのでした。
さうだ奈良!奈良へ行かう!
というわけで行ってきました。
近鉄電車で京都駅からあっという間でした。
まずはじめに目指したのは志賀直哉旧居。尾崎一雄と同じ行動です。
なかに入ると、部屋数の多さに吃驚。昭和初期の最新設備だそうで冷蔵庫や洋風のサンルームなどがあるとてもモダンなつくりでした。
台所の隣には女中部屋。やはり狭くて暗い感じ。女中になった自分を想像してみると、志賀直哉がなんだか怖い人に思えてきました。
庭からの眺め。
子どもたちのために作ったというプール。
暗夜行路を書いたという書斎もありました。
パンフレットによると、敷地435坪、建物134坪だそうです。
午後からは、ちちろへ。
ちちろの近くでやっていた大門玉手箱をのぞいたり。
帰る頃に空を見上げると、どういうわけか、ものすごい数の鳥が電線にとまっていました。